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You're Trouble


 夏が過ぎ、秋になる。
 この時季になると思いだすのは、やはり文化祭だ。
 文化祭では視聴覚室がライブハウスになるのだが、我が校の文化祭は部外者立ち入り禁止で、国立病院の真裏の高校ということもあり、音量と時間の制限もあった。つまり、著しく盛り上がりに欠けるものだった。
 「軽音楽」ではなく「重音楽」をやりたい僕たちは、バンドをやるにあたって、まずは諸々の制限を緩和して、さらに一般入場を可能にして欲しいという願望があったのだが、誰と交渉すればよいのかも分からなかった。
  
 2年生の春に生徒会長に立候補することになった。 
 本当のところ、立候補そのものは、例によって気まぐれだ。
 そもそも僕は小学生の頃から、「生徒会の立会演説会」というイベントがすごく面倒臭くてキライだった。体育館で三角座りをさせられて、できのいい生徒たちの演説を聞くなんて最低だと思っていた。まあ僕も1回くらい舞台の上から、三角座りの全校生徒を見下ろしてやってもいいかなという程度の、安直な思いつきの立候補。ハナから当選するとも思っていなかったし、演説会本番、僕は演台から「テヘっ、やっぱり辞めときます」と、立候補を辞退してやろうかとも考えていた。生徒会史上、前人未到のボケだ。気分は吉本新喜劇で木村進が演じていた「お邪魔ババア」だった。
 
 「お邪魔ババア」とは、「さんまの駐在さん」という劇の中で、犯人が捕まったところに、唐突にもんぺ姿の老婆に扮した木村進が登場して、「待ってください、この子はそんなに悪い子じゃないんです」と迫真の泣きの演技。郷愁を誘うBGMをバックに子供の生い立ちを語り、最後に「どうか、どうか許してやってください〜」とその場に泣き崩れる老婆。駐在役の明石家さんまが肩を抱いて「おばあちゃんはお母さんですか」と尋ねると、「・・・アカの他人です」。途端に身軽でふざけたババアに豹変するという笑い。
 
 そんな感じで、演説中に「生徒会長になる気はない」ってオチをつけたら面白いかもしれない。直前まで僕はそう考えていた。
 ところがマジメそうなライバル候補者や先生たちが、「何でオマエが!」というイラついた攻撃的な目を僕に向け、三角座りの全校生徒が、場違いな僕の登場で少し沸いた。口笛を鳴らす者までいる。
 僕は「カチン」と「エヘっ」が同時に起きる不思議な感覚を覚えた。こうなれば持ち前のサービス精神で「もっと怒らせてやろう&もっと喜ばせてやろう」と思った。
   
 「この場面では何がウケるか」を考えたとき、ふと中学校の体育祭の閉会式を思い出した。ある年の閉会式で校長先生が、
 「皆さんお疲れ様でした、以上!」
 という超ショートな挨拶をして、全校生徒から血の通った支持を得たことがあった。
 僕も「演説しか能のない大人でも、やればできるものだな」と感心した。いつの日かその潔さを自分もどこかで発揮したいと思っていた。そして今がその時だ。
   
 他の候補者が、有権者である生徒たちに向けてではなく、教師のゴキゲン取りみたいなくだらない、長いだけが取り柄の退屈な演説をしている。案の定、客席は冷め切っている。
 いよいよ僕の番が来た。
 みんなよほど退屈していたのだろう、この道化者が何を喋るのか、全校生徒に一瞬の関心と静寂が訪れる。
 僕は大きく息を吸って、
 「・・・みなさん、明るい学校にしましょう、以上!」
 と、ペコっと頭を下げて演台を離れた。
  
 こういう退屈な場面での「たった一言」の破壊力を、他の候補者は知らない。ドッと客席を沸かして満足した僕は、もれなく圧倒的な支持率で当選した。ちょっとしたカリスマだ。まあ、これでどういったレベルの高校だか想像がつくと思う。彼らはまるでマスコミに踊らされて無能を政界に送り込むという失敗を延々と続けている、どこかの国民と一緒だ。反省なんかするもんか。
   
 前代未聞の「勘違い生徒会長」の誕生。何しろ、僕もみんなも勘違いしているのだから。
 ただし、大人たちに言われる「積極的に」とか「自主性」という、大義名分を真に受ける才能は、やはり僕のような「アホ」のほうが勝っている。それに関してだけは僕は適任だったといえる。私利私欲には走ったが、まずは文化祭を「積極的に」一般解放し、さまざまな制限の緩和を行った。
 またそれに伴う風紀上の問題に対しては「柔道部・剣道部・その他運動系クラブ有志」による大人数自警団を設立し、団長に親友Tを任命した。血の気の多いメンバーの中、「負けるが勝ち」が口癖の彼をトップにしておけば諍いは起こらない。
    
 おかげで2年生の文化祭は心置きなくバンドができた。PAの予算も前年よりも多めに確保したし、やはり一般の観客動員が刺激的だった。
 その年は「ランスロット」というハードロックバンドでボーカルを担当し、ラットやナイトレンジャー、オジー・オズボーンの曲を演奏した。歌詞は完全にデタラメ英語だったけど、英語の先生から「発音がいい」と褒められた。
   
 生徒会長は2期やった。
 最後に副会長を1期やって後進を育てた。
 「風紀の乱れ」を正すのが生徒会の役目なのだが、やがて、
 「生徒会長タバコで停学」
 というセンセーショナルな不祥事を起こした僕。
 しかし有権者たちは「ああ、やっぱり」と驚きもしなかった。むしろ笑って許してくれた。あの頃の僕には、悪徳政治家の才能があったのかもしれない。 
 
 BGM;You're Trouble/RATT
 
 
 
 

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