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Kicks
 柔道部にR先輩という怖い人がいた。
 柔道はもちろんのこと、テコンドーの使い手でケンカでも負け知らず。我が校で「番」を張っていた。何しろ暴走族を一人で追いかけまわし、壊滅させたという伝説の持ち主で、その名は大阪中に知れ渡っていた。

 部員が廊下で先輩とすれ違うときは、大きな声で「ちわっス!」と挨拶をするのが我が柔道部のしきたり。他の先輩とすれ違うときには、ニヤニヤ笑おうが声が小さかろうが別に平気だったのだが、R先輩とすれ違うときは緊張の糸が張りつめた。いい加減な挨拶だとボディブローが飛んできて、ゲホゲホと廊下でうずくまることになるので、これでもかというくらい満点の挨拶をするのだが、それでも油断はできない。
 ちゃんと完璧な挨拶をしたとき、鬼のR先輩はちょっと恥ずかしそうに「おうっ」と頷く。
 頷いてくれるだけでいいんだけど、照れ隠しのためか、すれ違いざまやほっとした瞬間、天井に届くのではないかというほどの、鋭角な蹴りが飛んできて、後頭部やこめかみに突き刺さる。
 これはR先輩なりの後輩に対する愛情表現なのだが、やられる側はたまったものではない。
 しかしこの猛獣とのスキンシップのおかげで、生意気な僕が他の上級生に狙われることはなかった。なにしろ「Rさんの後輩」なのだから。
 
 R先輩とそのお友だち連中は、外見はすでに若者ではなかった。
 「や」のつく職業、しかも幹部クラスといったところで、彼らが校内を歩くことで全校生徒に規律と緊張を与えていた。
 R先輩はほとんど柔道部に練習に来ない。入学当時は熱心に稽古に励んでいたそうだが、あまりに強すぎて他の部員がついてこれなくなったという。2年生になってからは数週間に1度顔を出して、いつも僕たち1年生に地獄のシゴキを与えている他の先輩たちをぶん投げてくれる。そういう意味ではR先輩は僕たち1年坊主の救世主だった。
  
 ある日のこと、久しぶりにR先輩が道場に顔を出した。
 稽古はすでに始まっているので、R先輩は道場の隅でひとり準備体操をはじめた。
 回り稽古で、出席部員が奇数の時は、ひとり余ることがある。
 僕に「余り」の番が来て見学していると、R先輩が、
 「1年、オマエそろそろ受け身、覚えた?」(当時は名前も呼んでもらえなかった。
 
 三年生をゴムボールのように投げ飛ばしまくるR先輩が、まだ受け身すら不安な1年坊主の僕と乱取り?それは乳幼児に「残波」をロックで飲ませるようなものだ。当時の僕は体重が55圈▲蹈に筋肉も発達していなくて、1年部員の中で一番チャラい。おまけについこの間、離乳したばかりだ。
 しかしR先輩の命令には逆らえず、有無をいわさず乱取り開始。僕も骨の2〜3本は覚悟したのだが・・・。
  
 ところがR先輩も、不甲斐ない僕の柔道に「トホホ」ときたのだろう。
 「何でもいいから技をかけてみろ」と、僕の技を受けてくれるという。
 「あっ、それじゃぁ・・・」と覚えたての「背負い投げ」を出してみることにした。
 「えっと、こうやって、それでこう・・・」
 本当にこんな感じ。未熟を通り越して、今、自分で思い出して書いていて情けなくなる。
 R先輩も「もっと引手に力を入れて!」とか、いろいろとレクチャーしてくれるのだが、とにかく怖い。
 
 先輩のカラダを背中に担ぐ。
 「よし、もっと気合い入れて!」
 「はい!」
 「声、出せ、声!」
 力を込めて投げるとき、声を出せばパワーアップするものだ。
 僕も奥歯を噛みしめながら、「よっ!」とか「とっ!」とか声を出す。
 「もっと気合い入れて!」
 恐れ多いことに、R先輩が僕の拙い技で、投げられてくださる。
  
 礼節に厳しいR先輩。しかしその強さは大阪中に知れ渡り、その辺のヤンキーなんか情けなく逃げ出すという。
 「声出せ!」
 「よっ、とっ、ぐぅう!」
 「もっと!」
 「くっ、くっ、このぉ〜ボケェェ〜!」
 一瞬、道場の空気が凍りついたように、周りの部員の動きも固まった。
 やっちゃったよ、吉本くん。泣く子も黙るR先輩を「このボケ!」って言いながら投げちゃった。投げられてくれたR先輩も目も点になっている。
  
 「ちょっとそこに座れ」ということになりました。
 「教えてくれている相手にボケはないやろ!」みたいな叱られ方。
 さすがにシバかれはしなかったけど、生きた心地がしなかった。
 「それとなあ、1年!オマエちゃんと足の爪、切っとけよ!」
 と、爪が伸びていることまで注意されてしまった。
 
 その間にも回り稽古は進んでいるので、僕とR先輩は窓際に座って、他の部員の稽古をしばらく見学することになった。
 僕は急いで救急箱から爪切りを取り出し、足の爪をパチン!っと切ったのはいいけれど、運命のいたずらか、切った爪が跳ねて、スローモーションでR先輩の頬に当たった。
 再び「ちょっとそこに座れ」ということになり、「いまどきの1年坊主は爪の切り方も知らないのか」と厳しく叱られることになった。わずか数分の間に2回もR先輩に叱られた僕。他の1年坊主からは「絶対殺されると思ってた」といわれた。
   
 柔道でR先輩に勝てるようになるまでに1年間かかった。
 その日はきっと、たまたまコンディションが悪かったのだと思うが、「強くなったな」と褒められたときはすごく嬉しかった。ただし翌日から廊下ですれ違ったときの蹴りは、さらに強烈になったけど。
 
 世界征服とか史上最強がこの人のゴールだと思っていたのに、R先輩はやがて大学進学を目指すようになった。僕が知る限りでは、残念ながら一浪することになったのだけど、卒業後は「〇〇予備校で番を張っている」というウワサを聞いた。
 卒業してからR先輩とは一度も会えないんだけど、中年になって生意気になった僕に、また「そこに座れ」と説教して欲しい気がする。
 
 BGM;Kicks /Paul Revere & The Raiders
 
 
 
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